Claude Code活用 #16 AIが途中から雑になるのは、能力のせいじゃない──1枚に1体サブエージェントを立てたら、毎日任せられるようになった

1枚に1体、サブエージェント - 山積みのPDFが1枚ずつ別のサブエージェントに分岐し、整理されたフォルダに収まる図

AIに仕事を任せていると、途中から様子がおかしくなることがあります。

最初の数件はきれいにさばくのに、だんだん雑になる。さっき決めたはずのルールを、後半で無視しはじめる。同じことを頼んでいるのに、10件目の品質が1件目に届かない。

これを「AIの能力の限界」だと受け取ると、打つ手がなくなります。でも実際にうちで起きていたことの正体は、能力ではありませんでした。机が足りていなかった、というほうが近い。

前回、#15 で仕様書レビューの話を書きました。あそこでサブエージェントを使ったのは、質のためです。書いた本人には見えないものを、経緯を知らない別人格に見つけてもらう。

今回は同じサブエージェントを、まったく違う理由で使っています。質のためではなく、AIの頭を食い潰さないためです。#15 の最後に「手分けさせる使い方もある」と書きました。今日はその実物なのですが、やってみると、分けた理由は速さではありませんでした。

何をしている係なのか

うちのグループ会社(不動産を持っている、私ひとりの会社です)には、毎日紙が届きます。契約書、請求書、送金明細、各種通知。これを複合機でスキャンすると、クラウド上の受け取りフォルダに、無名のPDFとしてたまっていきます。

この山を、毎朝9時に読んで仕分ける係を作りました。1枚ずつ中身を見て、「これは○○の物件の、○年○月の収支報告書だ」と判断し、名前を付け直して正しいフォルダへ動かす。ルールに当てはまらないものには手を出さず、「これは判断できませんでした」と報告して終わる。サーバー上で、私が見ていないところで動いています。

この係そのものの紹介は、以前グループ会社のブログに書きました(AI社員、2人目が入社した。スキャンした書類を毎日、読んで仕分ける係)。あちらは「迷ったら触らず報告する、という線をどこに引いたか」という任せ方の話で、中の作りには一切触れていません。今日はその裏側です。

画像を読むと、記憶が飛ぶ

まず、この仕事が何をしているかを分解します。

PDFの中身を読むには、AIに「見て」もらう必要があります。うちのやり方はこうです。PDFを画像に変換して(pdftoppm というツールを使います)、その画像をAIに読ませる。契約書の1枚目を200dpiの画像にして、そこから物件名と書類種別と年月を読み取る。ついでに、スキャンが上下逆さまになっていないかも判定して、必要なら回転させます。

ここに落とし穴がありました。画像は、とにかく重いんです。

前回の #15 でも書きましたが、AIにはコンテキストというものがあります。その仕事のあいだ、頭の中に置いておける情報の量です。これまでの会話、読んだファイル、下した判断。人間でいう「その場の記憶」であり、机の広さでもあります。そして、これは有限です。

文章なら、そこそこの量が入ります。ところが画像は、1枚読むだけで机の一角が丸ごと埋まります。スキャン書類ともなれば、細かい文字を読むために解像度も要る。1枚読むごとに、机の上が確実に狭くなっていきます。

そうすると何が起きるか。

  • 1枚目:机が広い。ルールブックも見える。きれいに判定できる
  • 5枚目:机の上が過去4枚のスキャン画像で埋まっている
  • 10枚目:さっき読んだルールが、机の下に押し出されている

10枚目の判定が雑になるのは、AIが飽きたからでも、能力が足りないからでもありません。判断に必要なものが、もう机の上に残っていないからです。しかもこの係は、私が見ていない朝9時に無人で動きます。雑になっても、誰も横で気づけません。

1枚に1体、担当をつけた

対処はシンプルで、PDF1枚につき、サブエージェントを1体立てることにしました。実際にそう切り替えたのは今年の3月です。

サブエージェントは、まっさらな机で始まります。渡されるのは、ファイル名と、ルールブックの場所と、いま対話モードか無人モードかという実行条件だけ。そして自分の担当する1枚だけを画像にして読み、判定し、移動させて、結果をテキストで返して消えます。

大事なのは、画像がその1体の机の上で完結して、消えることです。

そして親(メインスレッド)のほうは、何を持っているか。

  • 処理するファイルの一覧
  • 各担当から返ってきた結果のテキスト
  • Discordへの通知

それだけです。 親はスキャン画像を1枚も見ません。ルールブックの中身すら読み込みません。10枚来ようが30枚来ようが、親の机の上にあるのは「○○.pdf → ルール1を適用して移動しました」という一行ずつのテキストだけ。

作りとしては、これは現場を見ない管理者です。人間の組織なら褒められた話ではないかもしれませんが、ここでは正しい。親の仕事は判定ではなく、全体を最後まで見失わないことだからです。

切り替える前は、1体が1枚ずつ順番に処理していました。同じ机の上で、次から次へと書類を広げていく形です。当然、後になるほど狭くなる。ちなみに当時は作業用の一時フォルダも1つを使い回していたので、分けたときにここも1枚ごとに分離しました(/tmp/scan_p1/tmp/scan_p2…)。机を分けたら、机の上のものも分けないと混ざるという、当たり前といえば当たり前の話です。

副産物として、速くなりました。担当が独立したので、全員を同時に走らせられます。1枚ずつ順番に待つ必要がない。ただ、これは狙って得たものではなく、分けた結果ついてきたおまけでした。

マニュアルを、手順とルールに分けた

もう一つやったのが、業務マニュアルの分冊です。これも渡す量の話です。

この係のマニュアルは、放っておいたら 730行まで膨らんでいました。中身を見ると、性質の違うものが同居していました。

  • 作業の流れ(ファイル一覧を取る → 読む → 移動する → 通知する)= めったに変わらない
  • 仕分けルールの一覧(この物件のこの書類はここへ)= 毎月のように増える

AIは仕事のたびにマニュアルを頭から読み込みます。つまり、ルールが1つ増えるたびに、毎回読む量が増えていく構造になっていました。読む量が増えるということは、それだけ机が最初から埋まった状態で仕事を始めるということです。

そこでルール一覧だけを別冊のルールブックに切り出しました。結果、マニュアル本体は 730行から165行に。切り出したルールブックのほうは、いま 709行・27ルールあります。合計は減っていません。置き場所を変えただけです。

効いたのは、この一言をマニュアルに書けたことでした。

ルールカタログ全文はメインに読み込まない(サブエージェントが必要な分だけ読む)

709行のルールブックは、親の机には一度も載りません。各担当が、自分の1枚を判定するのに必要な分だけ開きます。

ここが地味にいちばん効いています。ルールは今後も増え続けます。 新しい物件を買えば増える。新しい金融機関と取引すれば増える。実際、5月時点で25件だったものが、いま27件です。

もし全部を1体に持たせる作りのままだったら、ルールが増えるほど毎日の仕事が重くなり、いつか「ルールが多すぎて回らないので、ここらで止めます」という日が来ていたはずです。分けてあるから、ルールが100件になっても親は太らない。 業務の成長にAIが耐えられるかどうかは、賢さではなく、この構造で決まっていました。

おまけに、このルールブックは書類アップロードを手伝う別の係とも共用しています。一人に教えたことが、そのまま別の係の能力にもなる。マニュアルとルールブックを分けたことの、思わぬ配当でした。

「AIは長く使うと雑になる」の正体

ここからが本題です。

AI導入の話をしていると、かなりの確率でこれを言われます。

最初はいいんだけど、続けているとだんだん雑になるんだよね

私も同じことを感じていました。そして原因を「AIの限界」に置いていました。だとすれば、待つしかない。モデルが賢くなるのを待つ。

でも今回の係で分かったのは、その多くは机の広さの問題だということです。長い仕事を1体に全部持たせれば、後半は必ず狭くなる。狭い机の上で下した判断が雑になるのは、能力ではなく物理です。人間だって、資料が山積みの机で20件目の判断をしたら精度は落ちます。

だとすれば、打ち手は「賢くする」ではなく「分ける」でした。しかもこれは、今日から自分で決められます。

分け方も、経営の言葉に翻訳できます。要するに、誰に何を見せるかの設計です。

  • 1件に1人つける — 1人に20件持たせない。持たせた瞬間、後半は捨てているのと同じです
  • 親に現場を持ち込まない — 全体を見る人が細部を抱えると、全体が見えなくなります
  • 分厚いマニュアルを、全員に配らない — 必要な人が、必要なときに、必要な章だけ開ければいい

3つとも、AIの話に聞こえて、人の組織の話でもあります。違うのは、AIなら担当者を1件ごとに立てられて、しかも一瞬で解散できることだけです。人の組織では、そんな贅沢な配置はできません。

そして #15 と並べると、線が1本通ります。あちらは質のために分けました。書いた本人に見直させないために、経緯を切った。今回は消耗を防ぐために分けました。画像で机を埋めないために、仕事を切った。

分けるという同じ動作が、片方では品質に効き、もう片方ではコストに効く。 サブエージェントは品質の道具であると同時に、経済性の道具でもあった、というのが今回の実感です。

ひとり会社に、事務部門ができた

最後に、経営の実感を一つ。

この係は、いまも毎朝9時に動いています。私は上がってくるDiscordの通知に目を通して、判断が要る数枚だけ手を入れる。事務スタッフを雇わずに、事務部門が静かに立ち上がっている感覚です。

ここで大事なのは、これを成立させたのが高性能なAIではないという点です。同じAIに同じ仕事を、分けずに渡していた時期もありました。動くには動くけれど、枚数が増えると崩れる。毎日回すには危なっかしい。同じAIを、分けて渡した瞬間に、毎日任せられるものになったわけです。

もし今、AIを試してみて「使えるけど、任せきるには不安がある」で止まっているなら、能力ではなく渡し方を疑ってみる価値があると思います。1回の指示で全部やらせようとしていないか。1体に20件持たせていないか。全部の資料を、最初から全部読ませていないか。

うちの場合、その見直しだけで、書類の山が毎朝勝手に片づくようになりました。

次回は、この「分ける」をもっと振り切った使い方——新規事業を検討するのに、調べものを手分けさせたうえで、AI自身に調査結果を潰させる話を書く予定です。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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